「トラウマ」ってなんなの？
最近、テレビや新聞、バラエティー番組なんかでも「トラウマ」という言葉はよく聞きます。この「トラウマ」とは「心の傷」のことです。つまり何かの出来事で心が傷ついた状態を言います。ベトナム戦争がきっかけで世界で注目されるようになり、日本では神戸の震災の頃から広く知られるようになりました。冗談のような話ですが、私が精神科医になりたての頃、床屋さんで散髪をしていたら店員さんに「犬尾さん『うまとら』ってなんですか」と聞かれたことがありました。動物か何かと勘違いされていたのでしょう。今ではこのような勘違いは起こらないくらい「トラウマ」は日常会話でよく使われるようになりました。

そしたら「PTSD」は？
Pは「ポスト」という英語の頭文字で「〜のあと」という意味です。「ポスト管」と言えば、「管直人首相の後に誰が首相になるか」という意味ですし、「週刊ポスト」と言えば「これから流行ることを記事にした週刊誌です」という意味になるでしょう。Tは先ほどの「トラウマ」のT。Sは「ストレス」のS。Dは「障害」という意味の英語の頭文字です。つまり「PTSD」は「トラウマの後に起こる、精神的なストレスによる心の不安定な状態」という意味になります。

じゃあ、失恋してへこんでいるのも「PTSD」？
失恋すると心がへこむものです。失恋そのものは確かに「トラウマ」ですが、このような日常的に誰もが経験するつらい出来事の後、しばらく気分がさえない程度のことは「PTSD」とは呼びません。「PTSD」は今回の東北の大地震、大津波などのような大災害や、強盗やレイプなどのような生命に関わる大きな事件にあった後、１ヶ月以上たっても不安で落ち着かない精神状態のことを言います。特徴的な症状として、嫌な思い出が急によみがえるフラッシュバックや不眠、そして強いうつ状態が観察されます。

それって治るんですか？
「PTSD」となるとやはり治療が大変です。ですが放っておいても良くなりません。しかし「辛い体験で起こる心の傷つき」つまり「トラウマ」や「強いトラウマ体験の後１ヶ月以上も続く精神的不調」つまり「PTSD」にともなう不安、不眠、うつ気分は薬である程度軽減することができますし、話すことで気分も楽になります。一人で悩まず、治療をしてみましょう。